霧の中の灯台守
十二月の海岸は、霧に完全に支配されていた。水平線は消え、空と海の境界も溶け合い、世界はただ灰色と白の濃淡だけで構成されていた。岬の突端に立つ彼——その名を誰も知らなかった——は毎朝五時に灯を点し、夜の十時に消す。それが彼の仕事であり、彼の世界の全てだった。
霧の日、彼の仕事に意味が生まれた。沖合を行く船の乗組員には、その光が唯一の陸の証拠となる。見えない場所から見えない人々を導くこと——その匿名の繋がりの中に、彼は何年もの孤独を正当化する何かを見出していた。霧笛の低い唸りが海上に広がるとき、彼は返事を待つように耳を澄ます。返事は来ない。しかし波の音が変わるような気がした。
春になれば霧は薄くなり、訪れる観光客が岬を歩くようになる。しかし冬の孤独な任務を知る者はいない。彼はそれで良いと思っていた。灯台の光は、見られることを必要としない。ただ、そこにあり続けることが全てだ。夜明けの最初の光が霧を破って差し込んだとき、彼はいつも同じ安堵を感じた——また一日が始まる、という単純な喜びを。